写真に写るカップル。
名前を、僕は知らない。
…
雪で、交通機関の
混雑が予想されるので、
社員を早めに帰らせて、
後片付けして、
事務所をあとにした。
最寄り駅に着いたはいいが、
一向にバスが来ない。
タクシー待ちは長蛇の列。
待っている間に体が冷える。
よし、歩こう!
雪降る中を歩きはじめた。
歩き始めて、すぐに後悔した。
待っとけばよかったかなぁ...σ(^_^;)
ふと、足元にピンクの
スマートフォンを見つけた。
どうしよう…
この雪の中だ。
これから、さらに積もれば、
絶対に、見つけられない。
明日、雪がやんだら
交番に届けるか…
そこから、トボトボトボトボ
歩いていると、電話が鳴った。
慣れないスマートフォン。
かじかむ手、すぐに取れない…
不在着信。
…どうする?
また、かかってくるか…。
一瞬迷うも、寒くて寒くて、
また、上着のポケットに
入れて歩き出す。
しばらくすると、
また、コール!
出ないと!
ポケットを探ると、
手にしたのは、
自分のiPhone!(◎_◎;)
俺のバカァー!
さっきと同じ番号。
結果、2回目の不在着信。
こら、あかんよね…
思いきって、電話した。
「電話を拾ったんですけど、
さっき電話出れなくて…。
落とした方に、
届けたいんですけど、
この電話の持ち主は、
お知り合いですか?」
「はい、僕の妻です。」
若い男の方が、電話に出た。
「あぁ、よかったー。
今どちらにいらっしゃいます?」
「家電量販店の近くに
いるんですけど…」
少し遠いな…
しかも、家と逆方向だ。
「すみません、今の場所から、
道なりに、左にまっすぐ行くと、
ファミリーマートがあるので、
そこで待ち合わせできませんか」
電話を切ったあと、しばらくして
ファミリーマートに着いた。
待っていると、
若いカップルが現れた。
男の人だけと思っていたので、
少し驚いた。
「ありがとうございます。
実は、今日、市役所に、
婚姻届をだして
きたんですけど…」
えー、ほやっほやの新婚さん!
「めちゃくちゃ
めでたいじゃないですか!」
どうやら、市役所から帰る
途中で、落としたらしく、
雪の中ずっと、探してたそうだ。
そうか、バレンタインだもんな。
記念日を、新しい記念日に
されたわけだ。
「婚姻届を出した時の写真も、
あったので、どうしても、
あきらめきれなくて…。
拾ってくれて、なんと
お礼を言ったらいいか…。
僕、このコンビニ、
絶対忘れません。」
若い旦那さんが、アツく言った。
スマートフォンは、
携帯電話であり、
カメラであり、アルバムだ。
これからも、思い出を
どんどん作っていかれるだろう。
お礼なんていらなかったんだけどせっかくなので、ジュースと
肉まんをごちそうになった。
僕は、スマートフォンの
カタチをした小さな幸せを
拾い、少しわけてもらった。
「お母さんと、婚姻届出した日、
すごい雪の日でね。
その帰りに、お母さんの落としたスマートフォンを拾ってくれた
親切な人がいてくれて…」
なんて、結婚記念日を
家族で祝う時に話してくれたら、
こんな嬉しいことはない。
…
「あ、せっかくなので、
幸せのお裾分け代りに、
一緒に写真一枚撮らせて
もらえませんか?」
それが、冒頭の一枚だ。
そして、このカップルの、
名前を、僕は知らない。
お互いの名前を知らなくても、
幸せをわけあえる。
ちょっとしたアクションを起こす
ちょっとした気持ちさえあれば。
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